自転車修理のおじさん 文・寺川眞由美


我が団地には自転車屋のおじさんがいる。 自転車屋といってもお店がある訳ではなく、毎日同じ場所にやってくるのである。
 少々ヘコミの入ったワンボックスの車の横には修理メニュー一覧がはってある。 中には自転車の修理道具一式が詰め込まれていて商店街の前の歩道にチョコットだけ乗り上げて駐車する。 当のおじさんは車の中で、小さなテレビを見ながら客待ちである。 ある日突然起こるパンク、日頃気になっていた自転車の不調などこまごまとしたことを直してくれるのでお客はぼちぼちやってくる。
 今日、その場所を通り掛かったので、前から気になっていたスタンドと、ハンドルのきしみを見てもらった。 油を差して、スタンドはボルトを外して変速機の調子もみてくれた。おじさんは客を使う。 「ちょっとブレーキかけて」「はい、もいっかい」おじさん吐く息がビールくさくないかい?  色々説明してくれて、聞き取れない所があったがうんうんとうなずいておく。 「はい、なおったよ」「いくら?」「三〇〇万円!」かましてくれるのである。 この頃ケータイを持っているので、出張サービスもしているらしい。 「一二時に北側の自転車置き場で修理の予約がはいっててね」なんていっている。 もう一台の修理も頼もうと思って、何時ならここにいるのか訪ねると 「夕方ならいるよ、夕方って何時かしってる? 三時以降にしてね、それまで昼寝してるから」とのこと。 なんだかなー、悠々自適ってか?  でも、このおじさんが直してくれると調子がいいし、タイヤのチューブ変えた時も安かったしね。 技あり、てことか。