旧刊・新刊
野々村馨著 『食う寝る座る 永平寺修行記』 (新潮文庫)



 デザイン事務所に勤める筆者が、三〇歳の時に道元が開いた曹洞宗の本山・永平寺に上山した。 自分が住む世界に対して違和感を抱き続けてきた筆者が、山門を潜り厳しい修行を送るにつれ、 少しずつ変わっていく姿が感動的だ。とくに最後の方で筆者が座禅について書く言葉は凛としている。 修行はまさに過酷だ。東司(トイレ)にも行鉢(食事)にも厳格な作法があり、新入りは古参僧侶に殴られ、蹴られ、規矩を徹底的にたたき込まれる。 「考える」のではなく、体で覚えることを強いられるのである。 そして、一年間、日々座禅に打ち込んだ末、筆者はこんなふうに言う。 「自由とは、自分を取り巻く外部の何かから解放されることではなく、 自分の内面にある欲望やその他もろもろの精神的なものから解き放たれることである」。 なんてことはない言葉かもしれないが、息が詰まる修行の日々を三〇〇ページ以上も読んだ後だけにジーンとしてしまう。 出家もしていないのに、読後背筋をピンと伸ばしたくなる本である。  (小出朝生)