友人から十万円で譲ってもらったローバー104のボンネットから煙がもくもくとのぼった。水温計を見ると、もう少しでレッドゾーンだ。裏道に車を止めてボンネットを開けると、リザーバータンクは空っぽ。しかたがないので、しばらくほっといてから、水を加えてディーラーへ直行した。ここはもともとローバー車を扱っていたが、ローバージャパンがつぶれてしまってからは、ボルボカーズジャパンへと変身していた。
対応に出てきたのは四角い顔のくせに、か細く優しい声の男性社員だった。どうも検査のために車を預けなければいけないらしい。それはいいが、代車がないと困ると訴えると、「急なことなのでマニュアル車しかないですが…」とためらいがちに言った。
代車として用意されたのはキャブレター式のおんぼろミニだった。動くのかという不安を抱えながら乗り込み、シートベルトを締めようとすると、びくとも動かない。その間、男性社員は四角い顔のくせに無表情だったが、シートベルトをつかんで目で訴えると、「おやっ」という表情になった。それから、メカニックを呼び、なにやらひそひそ話していたかと思うと、シートベルトの取り付け部分を分解し、小さな部品をポイと捨てた。修理時間は三分程度だったろうか。
確かにシートベルトはスイスイ動く。やれやれと思いながら出発しようとすると、「ストッパーを外したため、シートベルトは止まりませんので、その点、気をつけて運転してください」と、四角い顔のくせにしれっと付け加えた。一瞬、「ん?」と何のことを言っているのかわからなかったが、ということは、シートベルトを締めても全く意味がないということではないか。それでいいのか?
その後、ミニを運転することがことのほか楽しかったせいか、「重大な欠陥をしれっと告げたあの男性社員、四角い顔のくせに、なかなかやるなあ」と思い出しては、運転中もむふむふと笑いがこみ上げてくるのだった。 |