旧刊・新刊 |
澤地久枝著 『試された女たち』 (講談社文庫) |
澤地氏初期の作品集で、江戸後期から明治・大正・昭和の女たちの生きざまを硬質な文章で描いている。大隈重信、井上馨、伊藤博文などとの交流から、女フィクサーとして明治の政治舞台を暗躍したと言われる横浜屈指の旅館兼料亭「富貴楼」の女将・お倉、江戸後期の儒学者・頼山陽との叶わぬ恋を大胆な詩へと昇華させた江馬細香、そして二・二六事件の主人公の妻たち…。文章の質によるのか、あるいは、夫や制度、時代に試されたという澤地氏の視点そのものによるのか、そこに描かれた女性はみんな悲しい。なかでも、頼りない夫との生活に飽き飽きしながら、そのかわりに生来の芸術的な才能を怒濤のように俳句へと傾けていった杉田久女はあまりにも悲しすぎる。最後は師匠の高浜虚子にも愛想を尽かされたうえ、すべてを賭けた俳句も奪われ、狂気へと至る生涯は、読む者の心をぐいっと動かす。どうして澤地氏は悲しい女ばかり、いや、これら女たちを悲しく描かなければならなかったのか。その背景には、四十歳を過ぎてノンフィクションの世界に飛び込んだ澤地氏自身の、試された女たちへの熱い共感がある。 (小出朝生) |