編集後記

▼あけましておめでとうございます。と言うには、ちょっと遅すぎるな。すでに皆さんはいつもの日常に戻られていることと思います。果たして今年はどんな年になるのか、そんなことは知るわけありませんよね。とりあえず「手の仕事メモ」は今年も続けていくつもりですので、よろしくお願いします。
▼今回の「旧刊・新刊」の最後で、思わず「傑作ノンフィクションだ」と叫んでいるが、実を言うと松下竜一氏の作品はすべてそう叫びたい気持ちなのである。簡単に言えば、私は松下氏のファンなのである。ここで知らない人のために松下氏を少し紹介しよう。松下氏は高校卒業後、家業の豆腐屋を継いで、青春時代はずっと豆腐づくりに明け暮れた。その日々を歌と短文で綴ったのが『豆腐屋の四季』。これは緒方拳主演でテレビドラマになったから知っている人もいるかもしれない(私は観ていない)。その後、豆腐屋を廃業し、作家として数々の良質ノンフィクションを発表していく。たとえば大杉栄と伊藤野枝の四女ルイズの生涯を追った『ルイズ』、室原知幸の下筌ダム建設反対運動の『砦に拠る』、三菱重工本社爆破の大道寺将司を扱った『狼煙を見よ』など、いずれも権力や権威への闘いのドラマだが、そこには政治色は一切無く、『豆腐屋の四季』で歌った人を愛する気持ちが根底にある。それが松下氏の作品の魅力と言っていい。松下氏は今も故郷の大分県中津市に住んでいるが、頭を下げたくなるほどの豊富な知識を背景にした深い洞察力、事実を積み上げて真実を描き出す描写力を持ったこれら作品が次々と小さな田舎町から生まれていることは、まさに驚くべきことだ。松下氏の本は絶版になったものも多いが、なんと河出書房新社という出版社が四年ほど前から松下氏の全集を出版しているので、今は割と簡単に手に入れることができるようになった。是非読んでみてください。
▼さて、次の「手の仕事メモ」のテーマは「結婚」です。「結婚」をテーマにして何か書きたいと思われた方は、ホームページからのメール、FAX、手紙、葉書などで四〇〇字程度にまとめて2月中に送ってください。よろしくお願いします。