旧刊・新刊
            かざなし
松下竜一著 『風成の女たち』 (講談社文庫)


 大分県・臼杵湾の小漁村風成の女たちが公害企業・大阪セメントの進出を阻み、美しい村と海を守った物語である。 昭和44年から46年にかけての約2年間の闘いが描かれているが、それは想像を絶するほどの過酷さだ。大阪セメントの測量を阻むため、女たちがイカダに乗り込んで座りこみ、それを機動隊が排除しようとしたとき、夫であり漁師の男たちがイカダに乗り移ろうとすると、女たちは「来ちゃあならんで。来たらイヌの思うつぼでえ!」と叫んで必死にいましめるのだ。男たちが乗り込んでくれば、必ず流血惨事になり、これまでの反対運動が崩壊するのが目に見えているからだ。
この闘いはイデオロギーではなく、自分たちの海を子、孫に残していきたいという思いだけが支えている。だからこそより力強く、より深く人の心動かすのだろう。読むにつれ、権力者たちの人を見下す態度に怒り、それに必死に立ち向かう女たちに涙した。
 それにしても松下氏の女たちを見つめる暖かい視線と、闘いを冷静に描写する視点がみごとに共存していることに驚嘆する。久々に身体の奥から感動できる傑作ノンフィクションだ。
(小出朝生)