人生二度結婚説    文・川口晴絵

 

 人生二度出産説を唱える人がいた。一度目はこの世にオギャーと生まれ落ちた時、二度目は自分が親になる時で、それも一人前の親になるために子どもから「育てて」貰い、もう一度自分が生まれ変わる。確かに子育ての中で子どもから教わることは多々ある(それは小出朝生氏の文面にも良く出ている)。愛の結晶ではあるけれど、親を選んで出てくるのだと思う。よくぞ我々を選んでくれた! と子どもに感謝するばかりだ。
 結婚も「人生二度説」だと思う。一度目は「♪チャンチャカチャ〜ン」とウェディングマーチを鳴らした時、二度目は子どもが独り立ちして、再び二人が向かい合った時だ。その「二度目」で妻から離婚状が出されることが多くなった昨今だが、何でそうなっちゃうんだろう。子育てをするためだけに一緒になった訳ではあるまいに。私など、別れるの何の、と相当喧嘩も派手にやって「でもこれから二人の人生だよね、 フルムーン旅行だ」なんて(JRではもうやっていないか?)言っていた矢先に夫が死んじゃって…。もう大変だったんだから。母子家庭の末、再婚して人生二度結婚、を実行しちゃったけど。ン、何か変?



 
娘の結婚    文・小出朝生


 マンションのエレベーターで、同じ階に住むおじさんから声をかけられた。
「うちもね、今度娘がね、結婚決まったんですよ。いや〜、ハッハッハッ」。それはおめでとうございますと、うれしそうな顔のおじさんに返答すると、おじさんは満足そうに、うん、うんと頷いていた。このおじさん、気さくな人で、マンション内で出会うと必ず何か声をかけてくれる。
「寒いねえ」「子どもはすぐに大きくなるからねえ」「何歳?」…、ある時には「うちのハムスターがどっか行っちゃったんだけど、お宅に行ってないよね」と聞かれた。さあ、見かけませんでしたがと答えた後も、どっか行っちゃったんだよねと、悲しそうというか残念そうにつぶやいていた。
 そうそう、さっきの娘の結婚話をした後、「これでやっと肩の荷が下りた」というようなことを言っていた。その時のおじさんの顔、ちょっと頭を傾けて、目を閉じて、顔は笑っていたけど、心底ほっとした表情だったなあ。寂しさは感じ取ることができなかった。ただ、エレベーターの扉が開き、「じゃあ」と言って駆けだしたおじさんの後ろ姿は、あのハムスターを探していたおじさんの姿と重なって見えた。