旧刊・新刊
森巣 博 著 『無境界の人』 (集英社文庫)


 カシノ生活二十五年の常打ち賭人。こんな人もいるんだなあというのが正直な感想だ。著者はオーストラリアのカシノを中心に、賭博を常に打っている人である。プロのギャンブラーと言えばいいのだろうか。どうも説明が難しい。プロのギャンブラーと言うと職業的なニュアンスがあるが、著者の場合は生き方そのものが賭人と言った方がピッタリくるからだ。決して強い賭人ではない。しかし、二十五年間にわたり賭人として生きることは並大抵ではない。著者の言う賭博・三箇条は@ ゲームのルールをよく覚えなさい。A 負けるときは少額の、そして勝つときは多額の賭金(たま)をはりなさい。B 運(ツキ)が去ったと思ったら、すぐに席を立ちなさい。酒でも飲んで寝なさい。バカにしているのかとつっこみたくなるが、これこそが常打ち賭人として生きるための心得らしい。本書は、著者が常打ち賭人として生きてきた中で得られた、これらの方法論や哲学から日本人論までが、極めて魅力的な語り口で綴られている。その精神のあり方は、自由ですがすがしい。    (小出朝生)