泣くということ     文・山口 結美


 いつからこんなに涙もろくなったんだろう。昔は確か「クールで決して涙を見せない女」だったはずなんだが…。
 プチアダルトチルドレン(似非アダルトチルドレン?)だった私は、わりと大人になるまで、あまり感情をみせない人間だった。笑うことはもちろん泣くことに関しても可能な限り自分を律していた。大概の感情はコントロールできたし、「人前で泣くなんて見苦しい」と思っていたから、おさえきれずに泣く時は必ず独りだった。
 しかし自分を抑圧して生きていると心はどこかひずんでくる。そんなひずんだ自分が嫌で、あるとき感情をおさえることをやめようと思った。長年の努力の甲斐あってか、喜怒哀楽の表現は随分素直にできるようになった。が、副産物として涙もろくなった。それがここ最近とくにひどい。まるで涙腺が壊れたかのようである。親しい人が亡くなって号泣しちゃったりするのは当然としても、友達が結婚したのが嬉しいと泣き、本やマンガを読んでは泣き、新聞でちょっといい話を読んでは泣き、しょうもないTVドラマを観ては泣き、あげく月がきれいだと涙を流す。やれやれ……。
 でもまあ、昔より楽しいからいいか。なんといっても、嬉しくて泣くことのほうが多いしね。風水やらなにやらにやたらと詳しい知人が以前言っていたが、泣くということはある種の浄化になるのだそうだ。なんにしても「出す」ということは身体に良いことであるらしい (だから便秘よりは下痢のほうが身体にはいいんだそうな) 。 ただねぇ……、泣くとめちゃめちゃみっともない顔になるんだよね〜。もともと奥二重のまぶたが一層はれて目がなくなっちゃうし鼻は真っ赤になるし、あれはなんとかならんかいな。誰ぞ、女優さんみたいにキレイに泣く方法を教えてくれんかなあ。