六月の昼と夜    文・蒲生あつ子


 

 自分が死んだら誰に連絡してもらうかリストを作っておかなければと思う。猫の口臭がひどいので獣医へ行かなければと思う。Oさんにメールで本の感想を送らなければと思う。午前三時。彼はきっと向こうの国で夕暮れの町を歩いていることだろう。灯りを消したバスルームでシャワーを浴びながら、千年先の夏を夢みる。水浸しの世界。
 仕事が一段落したら、キーボードを修理に出そう。晴れたら自転車で川を見に行こう。シーツを洗おう。アイスボックスクッキーを焼こう。もう十日もたつのに、フォーミテーブルは色褪せることなく咲き続ける。昼の上で。
 夜になるとwが打てなくなる。「あ」たしは自分を見失う。植物状態になったら延命治療はしないでくれとは母に言ってはあるけれど、自転車のタイヤは空気が抜けたままだし、Oさんの本もまだ買っていない。猫が前足を引っかけて空を引きずり下ろす。かびの増殖する布団の中で彼は緑色に染まっていく。これもまた夢。雨はまだまだ止みそうにない。

 

 

 

  手縫いのアロハシャツ  文・水野裕子


 

 手縫いでアロハシャツを作ってみた。ライト・オンで2900円のお気に入り金魚柄を買ったばかりだし、洋服を手縫いで作るなんてバカバカしいと思いつつ。時間をもてあましていたわけではないし、とくに明確な理由もなくなんとなく作り始めたのだが、うっかり没頭してしまい、余った布でおそろの帽子まで作ってしまった。
 できた瞬間、自分は天才ではないかと自己陶酔し、次にいろんな人が驚いてほめてくれるだろうなと思った。だって、アロハと帽子が作れるんだぜー。でも、考えてみれば、昔の人って誰でも洋服や着物を作ってたんだよね。着る物だけじゃなく、作物や家も。江戸時代なんかは、町中「手作り」にあふれていたんだろうなあ。うどんだって、みんな手打ちだったんだろうなあ。うらやましいなー。無意識なのに「こだわりの手打ち麺」だったんだろうなあ。
 1日たったら、お手製アロハシャツはパジャマの上着に見えた。