おはようの天使 文・ハセガワトモコ


イラスト・岩崎里香 

 

 早起きだと人に言われる。昔から朝の5時には目が覚める。犬を飼うようになってますます早起きになった。日の出とともに自転車で川原へダッシュだ。誰もいない河川敷で犬の鎖をはずしてやりたい。かくして早朝4時半には、寝床どころか外にいる。
 河川敷は5時ともなれば散歩ラッシュである。愛犬家はいずこも早起きだし、老人も日の出とともに歩き出す。なかでも変わり種は、とある小柄なじいさんである。毎朝必ず同じいでたちで現れる。長靴にキャップ帽、右手に火バサミ左にレジ袋。誰に頼まれたわけでもないのに人が捨てたゴミを端から拾って歩いている。降っても照っても朝の5時にはそこにいる。
 このじいさん、5年前までは早朝散歩を楽しむ「おさんぽ族」だったそうだ。歩いていると河川敷に落ちているゴミが目についてしょうがない。ほかの人たちもきっと同じ思いだろうと、ある日突然ゴミを拾い始めた。家の庭は拾ったゴミでいっぱいだ。収集日までは家に置くしかない。仕分けする、猫が来る、追い払う、そりゃもう大変だと言って笑う。バーベキューの後がいけない、連休後のゴミの量はすごいという。でも、いつか、きっとみんなもわかってくれると信じている。事実ゴミの量は減ってきた。
 「昔っからすぐそこに住んでるけどさ、河川敷にバスケットコートやベンチを作ってもらえてうれしくてね。ここには鉄橋もあるしシジミは捕れるし子どもが喜ぶってみんな遠くから来るんだよ。いい思い出にしてほしくてさ。」じいさんのゴミ談義はつきない。ゴミを捨てる人へとか、それを拾う自分へのややこしい感情がまるでない。
 こちらは毎朝自転車で、すれ違いざまあいさつを交わすのが精一杯だ。行き過ぎてふと見やれば、長靴に火バサミのじいさんが、また一心にゴミを拾っている。どうかするとその背中には、いでたちとは不似合いな天使の羽が透けて見えたりするのである。