《手の仕事雑感》 文・山口結美

      


イラスト・岩崎里香 

 「仕事に関する雑誌を出そう!」
 「は?」
 「あんたも取材に行ってもらうから」
 「私も?」 
 
 季刊雑誌『手の仕事』は、唐突に発せられた小出編集長のこんな一言から始まった。忙しくキーボードを叩いていた手を止め私はしばし呆然としていた。平成五年春、とある昼下がりのことだった。 
 時は流れ、あの日からもう九年目を迎えている。当時、某業界新聞社に入社したてで、まだろくに取材経験もなかった私は小出氏の言葉に青くなっていたが、いつのまにか増えた仲間に教えられ助けられなんとか今日まで雑誌の発刊に携わっている。彼が持ち続けていた「仕事ってなんなんだ?」という疑問を私もまた同様に抱えていたことが、私にとっての動機となった。その疑問を胸に様々な仕事人を取材した。仕事をみることはその人の人生をみることなのだと、彼らの話を聞くうちにわかってきた。私に向けて語られたその言葉が宝石のようにいとおしかった。本業である業界新聞の業務の合間を縫っての作業だったが、気がつけばどちらも自分の大切な一部だった。この二つの仕事がずっと続けばいいと思っていた。
 よんどころない事情により雑誌としての『手の仕事』は今回から休刊する。私自身をとりまく環境も今は大きく変わり、縁あってパソコン学校で実習補助の仕事をしている。休刊せねばならなくなったことは寂しいが、幸い『手の仕事メモ』としてそのエッセンスは残る。今後この『手の仕事メモ』がどう展開していくのかまだ予測はつかないが、「仕事」と「人」を考えるというコンセプトだけは、変わることはないと思っている。