旧刊・新刊
  佐野眞一著 『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』 (文藝春秋) 

 

 

 宮本常一と渋沢敬三、この二人の名前をはじめて知った。宮本常一は日本中の村という村、島という島を歩いたという伝説をもつ民俗学者である。一方、渋沢敬三は渋沢栄一の孫に当たり、日銀総裁や大蔵大臣をつとめるかたわら、アチックミューゼアムという個人研究所をつくり多くの学者たちを生涯にわたって支援し続けた経済人・民俗学者である。この本は、不思議な巡り合わせによって出会った二人の人生と、日本が近代化していく過程をねじり合わせながら描いている。日本各地を歩き、「忘れられた日本人」たちの話を聞き綴った旅する巨人・宮本常一の圧倒的なエネルギー。偉大な家系に生まれたことによる葛藤をかかえながら、宮本常一を物心両面から支援し続けた渋沢敬三の学問への情熱。それらは現代が失ってしまったものをより浮き彫りにする一方で、かつてこんな日本人がいたんだという熱い思いを心に灯し、読後さわやかな風が吹く。 (小出朝生)